新築一戸建ての多くが2階建や3階建てである中、最近では「平屋住宅」が注目を集めています。
日本は国土が狭く、さらに居住エリアが密集しています。そのため、建物を上に伸ばすことによってなるべく敷地を有効利用し、より多くの居住空間を確保することが住宅建築の原則となっています。
これに対して平屋は1階のみで構成することから、2階・3階と同様の居住空間を確保するためには相応の敷地面積が必要となり、また工事効率も悪くなります。それでも平屋住宅が人気なのは「平屋ならではの魅力」が数多く存在するからです。
本記事の主な内容は以下のとおりです。
- 平屋住宅のほとんどが注文住宅で建築されている
- 平屋住宅はハード・ソフト両面でのメリットがある
- 平屋住宅は「老後も心配なく住み続けられる」
- 平屋住宅は広い敷地が必要
平屋住宅はいわゆる「建売」の物件が非常に少なく、ほとんどが注文住宅で建築されています。したがって平屋住宅は「住宅好き」あるいは「玄人向き」の住宅設計とも言い換えることができ、検討する際にはより多くの知識や知見が必要です。
今回は平屋住宅を検討されている方に向けて、その人気の理由とメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
目次
平屋が人気の理由
平屋住宅は、これまで主にシニア層を中心に人気がありました。セキスイハイムによる「平屋住宅に関する調査」でも、50歳以上の約3割が「平屋住宅に住みたい」と回答していることからも、根強い人気を伺うことができます。一方で、若い世代からは「昔ながらの家」「昭和の住宅」といった、どちらかと言えば少しネガティブなイメージを持たれていました。
しかし、最近では「平屋住宅ならでは魅力」がテレビや雑誌で頻繁に特集されるようになったことに加え、コロナによる生活様式の変化によって、子育て世代やトレンドに敏感な若い夫婦など、若年層からも需要が高まっているのです。
平屋住宅の5つメリット
- 生活導線がシンプルになる
- 耐震性が高い
- バリアフリーに優れている
- 高い天井高を確保できる
- メンテナンスが割安
生活導線がシンプルになる
平屋住宅は全ての居住空間がワンフロアで完結しているため、生活導線の無駄をなくすことが可能です。
特に上下階の移動が無い分、家事における移動コストは大幅に削減され、快適な暮らしの実現を図ることができます。
耐震性が高い
建物は高いほど、また上部が重いほどに振動の影響を強く受け、揺れを大きく感じる傾向があります。一方、背の低い平屋住宅は躯体構造がシンプルであり、かつ上部重量の影響も受けないため、耐震性が高く揺れの感じ方も比較的に少ない特徴があります。
バリアフリーに優れている
上下階の移動が無いこと、また生活導線がシンプルであることはバリアフリーの観点からも非常に優れていると言えます。
最近では、高齢を理由に一戸建てからマンションに移り住む方が増加しています。しかし、平屋住宅は管理の手間を除けばマンションと同様の居住空間を実現しているため「老後も心配なく住み続けられる」という点も魅力のひとつと言えるのです。
老後のことを考えると一戸建てと賃貸、どちらがいいんだろう?と迷われている方向けに、賃貸と迷ったときの考え方をこちらの記事で解説しています。
高い天井高を確保できる
建物を建築する際は「都市計画法」という法律に基づく「高さ制限」や敷地に対する床面積の上限値である「容積率」遵守する必要があります。都市計画法では10mまで建築可能なエリア、12mまで建築可能なエリア、あるいはそれ以上の高さが建築可能なエリアなど、区域ごとに高さ制限が指定されています。
そして、住宅を建築する際は制限高さいっぱいまで建築し、居住空間を最大限確保することが基本的な考え方です。通常、住宅の階高は約3m、天井高は約2.5mとされています。高さ制限10mのエリアであれば、3m×3=9mとなり計算上は3階建てまで建築することができますが、屋根の形状により高さを突破してしまう、やあるいは容積率の上限を超えてしまう可能性が高く、実際は2階建てとするケースがほとんどです。
一方、平屋住宅はそもそも高さ制限に余裕があるため、ご自身の好みで天高を決めることができます。ただし、あまりに高くしてしまうと建築コストが割高になるだけでなく、空調コストも非常に高くなってしまうため注意が必要です。
メンテナンスが割安
住宅は10年、あるいは十数年に一度、外壁を中心とした大規模なメンテナンスが必要です。外壁のメンテナンスは、それだけで数十万円、数百万円の費用が発生します。平屋住宅は外壁面積が少ない分、メンテナンスの費用を抑えされる可能性があるのです。
こちらの記事では、新築一戸建てを仲介手数料無料にできる理由を解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
平屋住宅の3つデメリット
- 広い敷地が必要
- 建築コストが割高になる
- 防犯・プライバシー面では劣後する
広い敷地が必要
2階建て・3階建てと同等の床面積を確保したい場合、相応の敷地面積が必要です。
都市計画法では先述した「容積率」の他に、敷地に対する建築面積の上限値である「建ぺい率」が指定されています。
例として、40坪の敷地で2階建てと平屋住宅をそれぞれ建築することを想定します。ここでの都市計画法による建ぺい率は50%、容積率は100%と指定されていた場合、それぞれの建物規模は下記のようになります。
- 2階建て:建築面積→40坪×50%=20坪、床面積=20坪×2階=40坪
- 平屋住宅:建築面積→40坪×50%=20坪、床面積=20坪×1階=20坪
2階建ての場合、容積率100%に対して最大の床面積である40坪を確保することが可能です。一方、平屋住宅は建ぺい率の制限を受けるため容積率を消化することができず、床面積は半分の20坪に制限されてしまいます。
このように、平屋住宅は法令上の制限によって敷地の有効利用が難しく、相応の床面積を確保するためには2階建て以上の住宅よりも広い敷地が必要となるのです。
建築コストが割高になる
先述の通り、平屋住宅は比較的コストの安い「建売」では販売されることが珍しく、注文住宅として建築されることがほとんどです。
注文住宅はオーダーメイドで設計できることが魅力であるものの、土地を所有していない場合は土地探しから始める必要があり、また建築費も注文住宅であるために割高になる可能性があります。
防犯・プライバシー面への懸念
平屋住宅は背の高い建物と比べて、防犯・プライバシー面に懸念があります。
特に周辺の建物との離隔が短い場合や前面道路の交通量が多い場合などは、人目を避ける対応策が必要です。
また、新築一戸建てを購入するときの6つの注意点をこちらの記事で解説しています。
平屋住宅と2階建て住宅、どちらが安く購入できる?
平屋住宅と2階建て住宅を比較した場合、同規模であれば2階建て住宅の方が安く購入することができます。先述のとおり、平屋住宅は注文住宅に頼る必要があります。同じ注文住宅であっても、同規模にするには平屋住宅の場合は広い敷地が求められるため、建築コスト以外にも土地取得コストが割高になる可能性が高いのです。
平屋住宅か2階建てか迷ったときの考え方
平屋住宅か2階建てのどちらが優位かは、検討者の予算許容度や希望エリアやなど、見る角度によって答えが異なるため一概に決めることはできません。
また、平屋住宅を希望されている方でも、特に都心や都心近郊に住まわれている方の場合、敷地の広さの課題によって諦める方が多いのも事実です。
平屋住宅を検討する際は、予算と購入エリア、周辺環境などがしっかりマッチするかを慎重に判断することが重要です。現在はコロナによる生活様式が大きく変化しています。今後、都心や都心近郊以外のエリアにおける生活を希望される方、あるいはそもそも広い敷地を所有されている方は、平屋住宅の検討も有益な選択肢と言えます。
おわりに:平屋住宅は魅力が多い一方、手に入れるには多くの条件もある
かつて「昔ながらの家」「昭和の家」と少しネガティブなイメージを持たれていた平屋住宅が、テレビ・雑誌で頻繁に特集されるようになったことやコロナによる生活様式の変化によって、現在は若年層からの需要も高まっています。
平屋住宅には「耐震性が高い」「天井高を確保できる」といったハード面でのメリットや「生活導線がシンプルになる」「メンテナンスが割安になる」といったソフト面でのメリットもあります。
その一方で、2階建て・3階建てと同等の床面積を確保するためには、相応の敷地面積が必要となるなど、法令や予算上の課題をクリアする必要があるのです。
現在はコロナによる生活様式が大きく変化しています。今後、都心や都心近郊以外のエリアにおける生活を希望される方、あるいはそもそも広い敷地を所有されている方は、ぜひ平屋住宅の検討をしてみてはいかがでしょうか。
この記事を監修した人

スターフォレスト代表取締役増田浩次(ますだこうじ)
埼玉県出身。親族の大半が不動産業界を営んでいたことから、自身も不動産業界へ入って30年近くが経ちます。モットーは、お客さまに喜んでいただけるような的確な提案をすること。お客さまには物件の良いところも悪いところもすべてお話しています。
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、損保募集人資格を所持しておりますので、住宅ローンや資金計画のご相談・アドバイスもお任せください。