不動産と2022年問題の関係性とは?「生産緑地」について解説

土地オーナーや不動産業界の関係者を中心に話題となっている「2022年問題」
2022年問題とは、都市圏の「生産緑地」と呼ばれる農地や農園の約8割がその生産緑地の指定を解除されることによって、住宅用地が大量に供給されることへの懸念を指しています。
住宅用地が大量に供給されると、住宅価格や賃料の大幅な下落が考えられます。そのため、国としても法律改正や建築規制の緩和など問題解決に向けた施策を行っています。
本記事の主な内容は以下のとおりです。
- 生産緑地は農地保全を目的に指定された農地や農園のこと
- 生産緑地に指定されると大幅な税制優遇が受けられる
- 2022年には約8割の生産緑地が指定解除される
- 2022年問題は住宅価格への大きな影響が想定される
2022年問題は、生産緑地周辺の不動産価格にも大きく影響を与える可能性があります。そのため、生産緑地のオーナーはもちろんのこと、生産緑地周辺の不動産を所有されている方や都市部での住宅購入を検討される方にとっても大きな問題と言えるのです。
今回は、生産緑地の基礎知識と2022年問題が抱えるリスクについて分かりやすく解説していきます。
目次
生産緑地とは?
「生産緑地」とは、市街化区域内における500㎡以上の農地や農園について、農地の保全を図る目的で指定されたものを言います。
生産緑地のほとんどは住宅街に存しており、「生産緑地」と外からでも分かりやすい場所に看板が掲げられています。
通常、市街化区域内の農地は宅地並みの税金がかかります。しかし、生産緑地に指定されると固定資産税が農地並みの金額に低減される、あるいは相続税の納税猶予が得られるなど、税制面での優遇を受けることができます。
制度化の背景
生産緑地が規定されている「生産緑地法」は1972年に制定された法律です。
当時の日本は高度経済成長と人口増加によって一気に都市化が進む状況であり、それに伴って多くの農地が宅地へと変えられていきました。
その結果、市街地の緑地や農園が大幅に減少したことで、住環境の悪化のみならず、地盤や保水機能の悪化による災害が頻発していったのです。
しかし、生産緑地法が制定された以降も土地不足と地価上昇という課題は常にはらんでいたことから、農地保全を目的とする「生産緑地」と、宅地への積極的な転用を目的とする「宅地化農地」の2つに分けることで、環境保全と宅地確保を同時に図ることとしました。
この2つの指定を行ったのが1992年であり、その指定期間は30年間と定められていたのです。
指定解除および売却ができるケースとは?
生産緑地に指定された場合、土地オーナーには「営農義務」が課せられ、農地以外への転用や外部への売却を行うことはできません。
ただし、下記に該当する場合は、生産緑地を解除し売買することが許されています。
- 生産緑地の指定期間が満了した時(30年経過後)
- 土地オーナーが死亡した時
- 土地オーナーおよび農地従事者が身体的な事情により営農を継続できない時
土地オーナーは上記いずれかに該当した時は市区町村の農業委員会に対し買取請求をすることができます。ここで市区町村が買い取らない時、かつ他の農業従事者による購入申出がない場合には、生産緑地の指定が解除され外部へ売却することができます。
なお、市区町村への買取請求は生産緑地法により定めがあるものの、自治体の予算不足などにより実現しておらず、多くが自由売買による外部への売却となっています。
2022年問題とは
1992年に指定された生産緑地は、それから30年後の2022年に解除されることになります。
そして、同時に問題になるのが「土地価格や賃料の暴落」への懸念です。
生産緑地の指定が解除されれば、それまで農地並みに優遇されていた固定資産税は宅地並みの金額が課税されます。実際は「激変緩和措置」という規定により5年をかけて徐々に宅地並み課税に変更されていきますが、いずれにしても金額差は数十倍から100倍ほどに上ります。
このような状況になれば、生産緑地のオーナーは外部へ売却するか、あるいは賃貸マンションなどを建設し、賃料収入を得ることで税金負担を賄おうとします。
その結果、同時に住宅用地や賃貸物件が市場に供給されることで需給バランスが崩れ、土地価格や賃料が暴落する恐れがあるのです。これを自治体や不動産業界、ネット界隈では「2022年問題」と呼んでいます。
2022年問題における対策方法3つ
指定解除後の土地の取り扱いについて、生産緑地のオーナーには大きく3つの方法が考えられます。
- 特定生産緑地制度を利用する
- 賃貸マンション建設などによる土地活用を行う
- 外部へ売却する
特定生産緑地制度を利用する
2022年問題を目の前にして、国は法律改正や建築規制の緩和を行っています。その中でも、最も注目すべきが2017年改正により誕生した「特定生産緑地制度」です。
特定生産緑地制度は、指定解除される時点で再び生産緑地として指定されることにより、税制優遇措置が10年間延長されるというものです。
この制度を利用することによって、生産緑地のオーナーは営農を条件に従前のまま所有を継続することが可能となります。
賃貸マンション建設などにより土地活用する
賃貸マンションによる収益化を図り、指定解除による税負担を賄う方法です。
賃貸マンション建設は「土地活用」としては一般的な方法です。土地オーナーの負担によるマンション建設後、建設会社やハウスメーカーが建物を一括借り上げし、借り上げ賃料を一定期間、土地オーナーに対して保証するというビジネスモデルが一般的です。
賃貸マンションによる土地活用は安定収益が得られるという点では魅力的である一方、高額の初期コストがかかること、また運営リスクがあることには十分な注意が必要です。
また、コストやリスクが心配な方は駐車場に転用することも一つの方法です。賃貸マンションよりも賃料は低減する一方で、初期コストや将来リスクも大きく減らすことが可能です。
売却する
指定解除後、売却する方法です。
先述の通り、生産緑地解除による売却には市区町村への買取請求、および農業従事者の購入申出を待つ必要がありますが、実質的には不動産デベロッパーやハウスメーカーなど、住宅用地として事業者へ売却することがほとんどです。
売却するなら信頼できる不動産会社に相談することが必須です。売却価格や期間についてしっかり相談しましょう。
こちらの記事では売却を検討している方向けに損しない売却の方法を解説しています。ぜひご覧ください。
おわりに:2022年問題はオーナーのみならず、住宅の購入検討者も注目すべきポイント
2022年問題とは、都市圏の「生産緑地」と呼ばれる農地や農園の約8割がその生産緑地の指定を解除されることによって、住宅用地や賃貸物件が大量に供給され、不動産価格や賃料の大幅な下落が懸念されていることを指しています。
生産緑地は固定資産税や納税猶予など、指定されている期間中は税制面で大幅な優遇を受けることができますが、指定が解除されると固定資産税が従前の数十倍から100倍ほどに跳ね上がるため、生産緑地のオーナーによる外部売却や賃貸マンションの建設が一気に行われる可能性があるのです。
そのため、2017年の生産緑地法改正により「特定生産緑地制度」が誕生し、解除時点で再び生産緑地に指定されると10年間の優遇措置の延長が受けられることとなりました。
いずれにしても、2022年問題により一定規模で住宅用地や賃貸物件の供給増加が考えられることから、今後都市圏における住宅購入を検討される方にとっても、市況変化には十分に注意する必要があります。
この記事を監修した人

スターフォレスト代表取締役増田浩次(ますだこうじ)
埼玉県出身。親族の大半が不動産業界を営んでいたことから、自身も不動産業界へ入って30年近くが経ちます。モットーは、お客さまに喜んでいただけるような的確な提案をすること。お客さまには物件の良いところも悪いところもすべてお話しています。
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、損保募集人資格を所持しておりますので、住宅ローンや資金計画のご相談・アドバイスもお任せください。