売主と買主の間に入って仲立ちすることを「仲介」と言います。不動産売買の仲介には「共同仲介」と「単独仲介」のふたつのスタイルがあり、多くの不動産会社は単独仲介を顧客にすすめてきます。
しかし、共同仲介と単独仲介にはそれぞれ一長一短あり、しっかりと違いを理解したうえで自分に適したほうを選ばねばなりません。安易に不動産会社の「おすすめ」に乗ってはいけないのです。
本稿では、共同仲介と単独仲介の特徴や、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。不動産の売買をご検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
共同仲介・単独仲介については、Youtubeで弊社代表の沢辺がより詳しく解説しております。
目次
共同仲介(共同媒介)とは?
まずは、共同仲介(共同媒介)から解説しましょう。
共同仲介とは、ひとつの不動産売買に複数の不動産会社が関与する仲介スタイルを指します。売主または買主の片方から手数料を受領するので、不動産業界では「片手仲介」あるいは「シングル」とも呼んでいます。
この共同仲介には、以下の3つのポイントがあります。
- 取引に複数の不動産会社が関与する
- 不動産取引の媒介は共同で実施するケースが多い
- 取引の責任は、関与した不動産業者が共同で負う
順番に解説していきましょう。
取引に複数の不動産会社が関与する
共同仲介では、複数の不動産会社が取引に関与します。関与の仕方はいくつかありますが、個人間でおこなう不動産売買では、売主と買主に別々の不動産会社が関与して取引をフォローするパターンが多いでしょう。
なお、不動産業界では、売主側の不動産会社と買主側の不動産会社を以下のように呼び分けます。
- 売主の担当業者:元付け業者
- 買主の担当業者:客付け業者
共同仲介には、他にも以下のようなパターンがあります。
- 仲介の再委託(依頼者が委託した仲介業者が、別の仲介業者に再委託)
- 複数社への仲介委託(売主が複数の仲介業者に売却仲介を委託)
- 中間業者の介入(元付け業者と客付け業者の間を中間業者が仲立ち補助)
不動産取引の媒介は共同で実施するケースが多い
個人間の不動産取引では「共同仲介」になる場合が多いでしょう。どういうことか、具体的な売買の例をあげてご説明します。
- Uさんが「自宅を売却したい」と不動産会社Aに相談
- Uさんと不動産会社Aが媒介契約(仲介を依頼する契約)を結ぶ
- 不動産会社Aがレインズに物件情報を登録
- 他の加盟店にもUさんの物件情報が共有される
- 複数の加盟業者が、買主を探すためインターネットに情報を掲載
不動産の売却を希望する売主と不動産会社が「専任媒介契約」や「専属専任媒介契約」を締結した際、不動産会社は定められた期間内に物件をレインズに登録する義務があります (宅地建物取引業法 第34条の2 第5項)。
「レインズって、なに?」という方は、こちらの記事をご覧ください。
レインズに物件が登録されると、加盟する不動産会社すべてに情報が共有され、加盟店全体が連携して買主を探す流れになります。ですから元付け業者と客付け業者が異なることは、ごく自然な売買の流れなのです。
仲介の責任は、関与した不動産業者が共同で負う
仲介に関する責任は、取引に関与したすべての不動産会社が共同で負います。共同仲介においては、不動産会社は取引の相手方に対しても「善良なる管理者の注意義務 (調査義務や説明義務など)」を負います。
たとえば、物件に関する不利益な情報を客付け業者と共有したものの、買主本人に知らせなかったとして、元付け業者の責任を認めた判例があります。
単独仲介(単独媒介)とは?
つづいて、単独仲介(単独媒介)について解説しましょう。
単独仲介とは、ひとつの不動産売買に1社の不動産会社が関与する仲介スタイルを指します。つまり、元付けも客付けも同じ不動産会社が担当するということです。
単独仲介と共同仲介の違いは、売主の観点からみると分かりやすいでしょう。
- 単独仲介 ⇒ 自分が仲介を依頼した不動産会社が買主を見つけてくる
- 共同仲介 ⇒ 別の不動産会社から買主の紹介を受ける
単独仲介では、売主と買主の両方から手数料を受領できますので「両手仲介」あるいは「ダブル」とも呼ばれています。不動産会社にとって、非常に効率がよい仲介スタイルです。
共同仲介と単独仲介の大きな違い
共同仲介と単独仲介は、不動産会社の立場からすると大きな違いがあります。単独仲介は、共同仲介より最大で2倍の仲介手数料を得られるのです。例をあげてみましょう。
売買額 | 共同仲介時の上限報酬 | 単独仲介時の上限報酬 |
1,000万円 | 39.6万円 | 79.2万円 |
2,000万円 | 72.6万円 | 145.2万円 |
3,000万円 | 105.6万円 | 211.2万円 |
たとえば3,000万円の物件なら、単独仲介にできれば報酬が100万円以上増えます。じつは、これが誘因となり、悪質な方法で単独仲介を狙う不動産会社を生み出しています (詳しくは後述)。
共同仲介のメリット・デメリット
つづいて、共同仲介と単独仲介の特徴をメリット・デメリットの切り口で解説したいと思います。まずは、共同仲介のメリットとデメリットからご紹介します。
共同仲介のメリット
共同仲介は、買主・売主ともにメリットがあります。まず、売主のメリットをご紹介しましょう。
- 売主側から提供される情報の不足を、客付け業者の調査で補える
- 売主の立場に立って、値下げ交渉に協力してもらえる
万が一、売主側が買主に不利な情報を隠したり気づいていなかったりした場合、単独仲介ではそのまま契約が進んでしまいます。一方、共同仲介では、客付けの不動産会社の調査でそれが判明するケースがあります。
また、共同仲介では、客付けの不動産会社は売主の顔色をうかがう必要がありません。ですので、値下げ交渉も(常識の範囲なら)買主の立場に立って、積極的に折衝してくれるでしょう。
次は、買主のメリットです。
- 単独仲介よりも、広く買主を募集できる
- 不動産会社が、売主の立場で仲介に従事してくれる
共同仲介では、多くの不動産会社が協力して客付けをおこないます。ですから、単独仲介に限定して売却活動をおこなうよりも、広く買主を募集できます。
また、元付けの不動産会社は買主の顔色をうかがう必要がありません。ですから、買主からの値下げ交渉を受け入れるよう、安易にすすめてくることもないでしょう。
なお、共同仲介であれば、物件所在地から遠く離れたところにいる買主と成約に至るチャンスもあります。
共同仲介のデメリット
つづいて、共同仲介のデメリットをご紹介しましょう。
残念ながら、物件の中には買主が共同仲介で買えないものもあります。本来あってはならないことですが、「囲い込み」に遭っている売主の物件は、客付け業者の照会が絶たれ手出しできません。
この照会請求を断つ手口を「売り止め」と言います。詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
売主の場合は、買主との交渉が難航するかもしれません。なぜなら、元付け業者も客付け業者もそれぞれ顧客の利益を優先すればよく、交渉が物別れになるケースが珍しくないのです。
交渉のやり取りも、売主と買主の間に2社の不動産会社が入るため、タイムラグが発生します。少なくとも「条件交渉に時間がかかる」と理解しておくほうが無難です。
単独仲介のメリット・デメリット
つづいて、単独仲介のメリットとデメリットをご紹介しましょう。
単独仲介のメリット
まずはメリットから、ふたつご紹介します。
- 交渉や意思の伝達がスムーズに進む
- 仲介手数料が安くなるかもしれない
単独仲介では、1社の不動産会社が売主と買主の間に入ります。ですから、不動産会社は売主と買主の事情を理解したうえで、両者の利益を極力最大化できるように交渉を調整してくれます。
単独仲介は、意思の伝達もスムーズです。不幸にも取引がトラブルに発展した場合、共同仲介では不動産会社どうしが対立しますが、単独仲介では不動産会社が売主と買主の間に入って解決に努めてくれます。早期解決が期待できるでしょう。
また、売主が業者であった場合、買主が支払う仲介手数料が無料や半額になる場合があります。ただし、値引きに関しては不動産会社の方針しだいですので、必ず安くなるわけではありません。媒介契約を結ぶ前に確認しておきましょう。
なお、手数料無料の仲介のメリット・デメリットについて、以下の記事で解説しています。詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
単独仲介のデメリット
最後に、単独仲介の短所をふたつご紹介します。
- 売主と買主、どちらかに不利な取引になる可能性がある
- 囲い込みが発生する可能性がある
売主と買主は、利益が相反します。つまり単独仲介では、不動産会社がどちらか一方に肩入れして、もう一方に不利な取引になる恐れがあるのです。
また、たびたびお伝えしているとおり、単独仲介では「囲い込み」が発生する可能性があります。売主が囲い込まれると、事実上、元付け業者以外の不動産会社は客付けを断たれてしまいます。
囲い込みによって買主が「元付け業者の顧客」に限定されてしまうと、売主は以下のチャンスを逃すかもしれません。
- 高く買ってくれる買主に出会えるチャンス
- 早く売却できるチャンス
囲い込みの立証は、非常に困難です。ですから、不動産業界で横行している可能性があります。大手不動産会社も含めて「絶対に悪用していない」とは言えませんので、ご注意ください。
おわりに:共同仲介と単独仲介の長所と短所を知っておこう
共同仲介と単独仲介には、それぞれ長所と短所があります。ですから、それを十分理解したうえで、自分にあった仲介スタイルを選ぶ必要があります。安易に不動産会社がすすめるほうを選んではいけません。
とくに単独仲介は、注意が必要です。買主にとっては大きなメリット(仲介手数料が安くなるかもしれない)がありますが、売主は大きなリスク(囲い込みに遭うかもしれない)があります。
買主は、手数料の値下げに応じてくれる不動産会社を。売主は、買主の立場になって仲介に従事してくれる不動産会社を探す必要があるでしょう。
この記事を書いた人

ホリカワダット
インテリアコーディネーターと1級カラーコディネーター資格保有。主に住宅分野を専門とするライター・ブロガー。工務店営業支援もおこなう複業フリーランス。高気密高断熱の注文住宅を得意とする建築会社で約8年間、営業職を経験。年間200組のお客様をサポートした経験と、自宅の分譲マンションをスケルトンからリノベーションした経験をもとに、家探しや家づくりの資金計画などをわかりやすく解説します。
この記事を監修した人

株式会社ユナイテッドリバーズ代表取締役沢辺敦志(さわべあつし)
千葉県出身。自身の自宅購入時に、不動産仲介会社に不満を持ったことをきっかけに不動産売買仲介業を開業し、不動産仲介手数料無料機構イエフリをオープンさせる。
自身の苦い経験から、受付・接客業務に特にこだわってチームづくりを心がけてサービス運営している。
趣味は料理、二児の父。