不動産業界でよく聞く「売り止め」は不動産業界のタブー?!意味や対策を徹底解説

不動産を売却する際、適正価格で売る自信はありますか?「名の知れた不動産会社に任せたら、大丈夫!」と思っていませんか?

不動産を売却するとき、売主は知らないうちに損をさせられていることがあります。不動産会社の中には、意図的に売却活動を長期化させ、適正価格より低い価格で売却させる業者があるのです。

本稿では、不動産業界のあしき商慣習「売り止め」と「囲い込み」をご紹介します。これからマイホームを売却しようとご検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。

「囲い込み」については、弊社代表の沢辺がYoutubeでも取り上げておりますので、こちらもぜひご覧ください。

売り止めとは?

さっそく「売り止め」がどういうものなのか解説していきます。売り止めから「囲い込み」につながる仕組もご紹介します。

売り止め(うりどめ)の概要

売り止め(うりどめ)とは「売却中の不動産の客付けを、中止や一時中断している状態」のことです。「客付け」とは買主を見つけること、あるいは買主を見つける不動産会社を指します。

この「売り止め」には、正当なものと悪質なものがあります。たとえば、以下は正当な事由による「売り止め」で、こちらは「うりやめ」と言うこともあります。

  • 不動産を売却する必要がなくなったので中止
  • 売主側の状況が変わり、不動産の売却を一時中断

一方、悪質な「売り止め」では、売主の意図に反して元付け業者(売主の媒介を担当する不動産会社)が勝手に他社の客付けを制限してしまいます。なぜなら、他社からの客付けを阻止することで、売買の仲介を独占的におこなえるからです。

このような手法は「囲い込み」と呼ばれ、元付けの不動産会社は自社の顧客である売主と買主に売買させるべく、さまざまな手を使って取引を誘導します。その結果、うまくいけば一度の取引で売主と買主の双方から報酬を得られるのです。

なお、不動産会社を取り締まる「宅地建物取引業法」には売り止めや囲い込みを禁止する規定がありません。一方、レインズは意図的な「物件の不紹介」を利用規定(第18条)で禁止しています。

参考:近畿レインズ「物件情報登録のご注意」

この規定により、正当性のない意図的な売り止めをおこなった元付けの不動産会社は「是正勧告、注意 (公表)、戒告 (公表)」等の処分を受ける可能性があります。

不動産業界におけるレインズの役割やシステムの仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。

「売り止め」と「囲い込み」の仕組み

両手仲介(売主と買主の双方から仲介手数料を得られる仲介)を狙う不動産会社が、他社の客付けを制限する流れの一例をご紹介しましょう。

  1. 売主と専任媒介(または専属専任媒介)契約を結ぶ
  2. レインズの登録期限ギリギリまで掲載しない
  3. 「売り止め」を悪用して「囲い込み」をおこなう

まず、売主と専任媒介契約、または専属専任媒介契約を結びます。この媒介契約では、契約期間中、売主は他社と重複して媒介契約ができません。よって、不動産会社は売主から確実に報酬(仲介手数料)を得られます。

次に、わざとレインズの登録を怠り、物件の情報を独占します。しかし、専任の媒介契約ではレインズの物件登録が法令で義務化されていて、売主に登録証明書を渡さねばなりません。ですから、登録期限ギリギリまで掲載しないようにします。

参考:宅地建物取引業法 第34条の2の5項

レインズに登録すると全加盟店に情報が共有され、多くの不動産会社が客付けできる状態になります。両手仲介を狙う不動産会社からすると、これはおもしろくない状況です。そこで「売り止め」を悪用します。

もしも、レインズを見た他社から問い合わせが入ったら、たとえば以下のような虚偽の返答で照会を断ったり時間稼ぎをしたりするのです。

  • 「すでに契約交渉中です」
  • 「買主が決まってしまいました」
  • 「ハウスクリーニングが済んだら内覧を受け付けます」
  • 「緊急事態宣言中につき、内覧はご遠慮ください」
  • 「お子様が体調不良で内覧できません」

このように言われてしまうと、他社は引き下がるしかなく、客付けを断たれてしまいます。たとえそれが虚偽であったとしても、本当のところは元付けの不動産会社以外に誰もわからないのです。

売り止めは不動産業界のタブー

「売り止め」や「囲い込み」をされると、元付け不動産会社以外の客付けが制限されます。そうなると、売主も購入希望者も、売買のチャンスを逃すことになります。その結果、売主は以下のような甚大な不利益を被ります。

  • 売却期間の長期化
  • 適正価格で売れず、値下げ損失が発生

たとえば、内覧を希望する方が現れたとしても、それが他社の客付けなら、先述の虚偽の返答で照会を断られてしまいます。他社の客付けが阻止されると、なかなか内覧予約が入らず、売主は不安になるでしょう。

そこで、元付けの不動産会社は「値下げしてみては?」と提案してきます。なぜなら、適正価格を下回れば、元付けの不動産会社が自力で客付けしやすくなるからです。

もしも両手仲介が成功したら、元付け不動産会社は売主と買主の両方から最大「売買額の3%+6万円+消費税」の手数料を受け取れ、利益が倍増します。どのくらい報酬が増えるのか、試算してみましょう。

売買額 片手仲介時の上限報酬 両手仲介時の上限報酬
1000万円 39.6万円 79.2万円
2000万円 72.6万円 145.2万円
3000万円 105.6万円 211.2万円
4000万円 138.6万円 277.2万円
5000万円 171.6万円 343.2万円



たとえば3000万円の物件なら、両手仲介にできれば報酬が100万円以上増えます。ですから元付けの不動産会社は、売主に不利な値引きをさせてでも、両手仲介するほうがもうかるのです。

売り止めには気をつける必要がある

悪質な「売り止め」は「囲い込み」につながります。囲い込まれると、買主は気に入った物件が買えず、売主は値下げ損失や売却活動の長期化などの不利益を被ります。

ですから、とくに売主は「あれ?勝手に売り止めされてる?」と感じたら、媒介を依頼する不動産会社の変更を検討したいところです。

悪質な囲い込みをするのは、一部の不動産会社だけ?

ところで、売主はどのくらい囲い込みの被害に遭いやすいのでしょうか。気をつけていれば、避けられるのでしょうか。

モラルなき商売をする会社が「見るからに悪徳な業者」であるなら、まだ避けようもあるでしょう。しかし実際には、名だたる企業も売り止めを常用している可能性があり、予防は困難です。それを示すデータをご紹介しましょう。

もしも、囲い込みが存在せず自由に客付けがおこなわれているとしたら、不動産会社の両手仲介比率はどのくらいの割合に収まるものなのでしょうか。あなたなら、何%くらいが自然だと思いますか?

ちなみに、以下の記事によると、大手の中には取引の50%以上が両手仲介の会社もあるようです。このような結果を見て、あなたは「自然」と感じますか?「不自然」と感じますか?

参考:大手不動産仲介は「囲い込み」が蔓延?!(ダイヤモンド不動産研究所)

少なくとも売主は、名の知れた不動産会社に仲介を依頼したとしても、念のため囲い込みを用心するほうが無難です。最初から疑う姿勢で接するのはよくありませんが、無条件で信用するのも避けたいところです。

なお、売り止めや囲い込みをする誘因は、売上増だけではありません。過剰なノルマを課す会社では、その達成のために売主を犠牲にして成績を上げようとする営業マンが現われ、売り止めが悪用されるケースもあります。

ですから、組織的にも個人的にも「囲い込み」がおこなわれる可能性があります。よって依頼人は、会社だけでなく営業マン個人の誠実さもよく確認しなくてはなりません。

「両手仲介」自体は法律違反ではないが、注意すべき

日本の法令では、両手仲介は違反ではありません。だからバレにくい「売り止め」の悪用や悪質な「囲い込み」が横行していて、誰でも被害者になり得るのです。

しかし、そもそも売主と買主は利益が背反します。ですから、取引が両手仲介でおこなわれること自体、売主も買主も用心すべきです。

  • 売主:なるべく高く売りたい
  • 買主:できるだけ安く買いたい

中古住宅の流通が盛んなアメリカでは、多くの州が両手仲介をおこなう際、依頼人に伝えることを義務づけています。両手仲介自体を禁止する州もあり、違反すると免許停止や免許取消の処分を受けます。

このような事実から、日本の不動産取引の透明性は国際的に見て「低い」と指摘されていて、不動産仲介業従事者からも「是正すべき」との意見がたくさん出ています。実際、社内規定で片手仲介の採用を推進している会社もあります。

レインズも平成28年にステータス管理機能の導入を図り、利用方法の周知をおこない始めました。現在このシステムにより、売主は物件の登録状況(公開中・書面による購入申し込みあり・売主都合で一時紹介停止中)を自分で確認できます

参考:売却依頼主物件確認案内書

残念ながら、悪質な売り止めや囲い込みは存在していて、売主や買主がこれに気づくのは容易ではありません。まずは両手仲介に対して用心を怠らず、上述のステータス管理機能のような仕組をうまく活用していきたいところです。

おわりに:「勝手に売り止めされてる?」と感じたときの対処方法

悪質な「売り止め、囲い込み、両手仲介」がおこなわれると、売主や買主は適正な取引の機会を奪われてしまいます。しかし、このような手口に気づいたり完全に防止したりするのは、難しいのが現状です。

万が一「ライバル物件は売れてしまったのに、自分の家はなかなか内覧の予約が入らない」とか「元付け不動産会社が、値下げを提案してくる」「両手仲介に誘導されている気がする」と感じたら、用心したほうがよいかもしれません。

もしも、媒介契約中の不動産会社に不安を感じるようなら、契約満了の際に別の不動産会社への変更をご検討いただくとよいでしょう。

不動産売却で失敗しないための考え方を以下の記事にまとめてあります。「不動産売却で失敗したくない…」と不安に感じている方は、ぜひ参考にしてください。

この記事を書いた人

ホリカワダット

インテリアコーディネーターと1級カラーコディネーター資格保有。主に住宅分野を専門とするライター・ブロガー。工務店営業支援もおこなう複業フリーランス。高気密高断熱の注文住宅を得意とする建築会社で約8年間、営業職を経験。年間200組のお客様をサポートした経験と、自宅の分譲マンションをスケルトンからリノベーションした経験をもとに、家探しや家づくりの資金計画などをわかりやすく解説します。

この記事を監修した人

株式会社ユナイテッドリバーズ代表取締役沢辺敦志(さわべあつし)

千葉県出身。自身の自宅購入時に、不動産仲介会社に不満を持ったことをきっかけに不動産売買仲介業を開業し、不動産仲介手数料無料機構イエフリをオープンさせる。
自身の苦い経験から、受付・接客業務に特にこだわってチームづくりを心がけてサービス運営している。
趣味は料理、二児の父。

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